岡山地方裁判所津山支部 平成3年(ワ)171号 判決 1992年12月16日
反訴原告
岸本秀雄
反訴被告
有限会社荒木運輸
ほか一名
主文
1 反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、金八五万六九八〇円及びこれに対する平成三年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 反訴原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを二分し、その一を反訴原告の、その余を反訴被告らの、各負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告(以下「被告」という。)らは、各自、反訴原告(以下「原告」という。)に対し、金一七〇万円及びこれに対する平成三年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故により受傷した原告が、加害車両の運転者と加害車両の保有者・運行供用者に対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づいて損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故
平成三年四月二五日午後七時三〇分ころ、岡山県真庭郡落合町大字一色の中国縦貫自動車道上り線一九〇・三キロポスト先において、被告田所運転の大型貨物車(富山一一あ二三六二、以下「加害車両」という。)から落下した積荷に、後続の宮崎健夫運転、原告助手席同乗の普通乗用車(岡山五九ひ七二七〇、以下「被害車両」という。)が追突する交通事故が発生し、原告は左胸部挫傷、左肘関節打撲の傷害を負つた。
2 被告らの責任原因
本件事故は、被告田所が積載していた積荷が、縛つていたロープが切れたために道路上に落下したために生じたものであつて、同被告に過失があり、また、被告会社は右加害車両の保有者・運行供用者であるから、ともに本件事故により生じた原告の人身損害について賠償の責任がある。
3 治療費の既払
被告らは、原告の本件事故による受傷の治療費二一万八七〇〇円を全額支払い済みである。
二 争点
1 本件事故の態様と過失相殺
本件事故についての被害車両運転者宮崎の過失の有無とその程度。
なお、宮崎に過失ありとされる場合、これをいわゆる被害者側の過失として、過失相殺されることについては、当事者間に争いがない。
2 原告の受けた損害の算定。
第三争点についての判断
一 過失相殺について
1 甲二、八、九、乙一の五、原告の供述によれば、本件事故は、次の態様のものと認められる。
被告田所が前記加害車両を運転して中国縦貫自動車道の走行車線を時速約一〇〇キロメートルで走行中、積荷である寸法一・二×〇・八×〇・五メートル、重量約六〇キログラムの鉄製空コンテナー(甲九によれば、当時の加害車両の積載重量約二五〇〇キログラム、積載品は空コンテナー四二個であるから、右コンテナーの重量は約六〇キログラムと計算される。)が落下し、追越車線上に転がつた。右積荷落下の原因は、積荷を固定していたロープが切損したためである。
宮崎は、前記被害車両を運転し、同道路の追越車線上を走行中、前方約四四・三メートルの地点に不審を認め(助手席同乗の原告によれば、「ライトの内になにか白つぽいものが落ちて転がつたのが見えた。」という。)、同約二六・一メートルの地点でコンテナーに気付き、急制動をかけたが、自車右前部がコンテナーに衝突した。
被害車両は、衝突後コントロールを失つて約六五メートル、スリツプしながら滑走し、道路左端のガードレールに擦過し、更に約三〇メートル滑走してようやく停止した。
2 被告らは、宮崎は制限速度八〇キロメートル(甲九)を越える時速約一〇〇キロメートルで走行しており、当時前方約八〇メートルまでの見通しが可能であつた(甲九によりこの事実自体は認められる。)のに、前方不注視のため前記のとおり約四四・三メートルで初めて不審に気付き、制動をかけたのも約二六・一メートルに至つてであつて、当時通行も閑散としていたことからすれば、宮崎が制限速度を守り、前方注視を怠つていなければ、走行車線への回避も可能であつたとして、宮崎の過失は三〇パーセントと評価すべきであり、現に被害車両の前を走行していたトラツクはコンテナーを回避している旨主張する。
3 検討するに、宮崎が時速八〇キロメートルの制限速度を越える速度で走行していたことは前記衝突後の滑走距離等から認めることができるものの、被告ら主張の、被害車両に先行していたトラツクについては、これが追越車線を走行中に、同車線上のコンテナーを回避したと認めるに足りる証拠はない(甲二によるも、被告田所は、加害車両を追い越していつたトラツクの警笛で、積荷の落下に気付いたとするのみであり、その余の事情は不明である。)。
もつとも、宮崎が、右制限速度(八〇キロメートル)を遵守し、かつ、見通し可能な八〇メートルの地点でコンテナーに気が付けば、衝突直前での停止も可能であるか、少なくともほぼ停止寸前の状態までの減速が可能であつたと認められる(経験則上、時速八〇キロメートルでの停止距離は約八〇メートル)から、宮崎にも、速度違反及び前方注視不充分の過誤があり、これが本件事故発生につながつたと認めることはできる。
しかし、本件は前記寸法と重量を有する鉄製コンテナーという危険物の落下事故であり、これが夜間の高速道路上のものであつて、しかも右コンテナーは走行車線から追越車線に転がつたもので、被害車両は右追越車線を走行中のものであつたことを考えあわせれば、宮崎の過失は一〇パーセントと評価するのが相当である。
(なお、仮に追越車線を先行するトラツクがコンテナーを回避したとすれば(前記宮崎の「前方約四四・三メートルの地点に不審を認めた」のが右の地点であつた可能性はある。)、宮崎の過失は車間距離過少に認められることとなるが、前記諸事情に照らせば、その場合もまた、同人の過失割合は同様に解される。)
二 原告の損害について
1 本件事故により原告が左胸部挫傷、左肘関節打撲の傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、甲四・五の各一ないし四によれば、原告は、右受傷のため、平成三年四月二六日から五月三一日までの間に計一一回、同年六月中に計七回、同年七月中に八回、同年八月一日から八月二七日までの間に計五回、通院治療を受けたと認められる。
2 右の原告の受傷、通院状況に照らし、原告の損害について検討すると、次のとおり合計一一九万五二〇〇円と算定するのが相当である。
(一) 治療費 二一万八七〇〇円
当事者間に争いがない。
(二) 休業損害 三七万六五〇〇円
乙八、九、乙五、六、原告本人の供述によれば、原告は岸陸送有限会社の代表取締役として稼働していたところ、前記受傷、通院に伴い、その年俸六〇〇万円(月額五〇万円)を四八〇万円とする旨取締役会で決議され、これに従つて一二〇万円(月額三〇万円の四か月分)の減俸となつたと一応認められるが、右減俸自体、原告の意を受けてのものであり、本件事故による狭義の原告の義務提供不能及び役員としての業務統括業務執行不能に対応するものとして相当であるとは認め難い。
役員報酬については、具体的労務提供の対価の他、役員としての経営上の意思決定判断に対する対価、及び資本投下に対する対価(利益配当分)等の諸要素が含まれると解されるところ、原告について、右各区分に対応する報酬額を認定する的確な資料はない。
そうすると、本件については、平成二年度の男子労働者計(学歴計)の年齢六五歳以上の平均年収額三三八万八八〇〇円(月額二八万二四〇〇円)を基準とし、前記原告の受傷部位、通院期間と通院回数(四か月間に計三一回)を基に計算すれば、次のとおり休業損害としては三七万六五〇〇円と認めるのが相当である。
二八万二四〇〇円×四か月÷三≒三七万六五〇〇円
被告らは、前記原告の報酬の内、その大部分が前記利益配当分であるとも主張するが、乙八によれば、前記訴外会社は和議中であることが明らかであり、右主張は採用できない。
(三) 慰謝料 六〇万円
前記受傷の程度、通院日数等に照らし、右額をもつて相当と認められる。
3 本件について、宮崎にも一〇パーセントの過失が認められること前認定のとおりであり、宮崎の過失が被害者側の過失とされることに当事者間に争いがなく、被告らにおいて、治療費として二一万八七〇〇円が支払い済みであることも争いがない。
そうすると、本件についての未賠償の損害額は、次のとおり八五万六九八〇円と計算される。
一一九万五二〇〇円×〇・九-二一万八七〇〇円=八五万六九八〇円
三 以上の次第で、原告の請求中、八五万六九八〇円及びこれに対する本件事故発生後であることの明らかな平成三年一二月二五日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分には理由があり、その余は失当であるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 小島正夫)